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ハーグ条約とは?元配偶者・配偶者に子どもを連れ去られたとき

子どもの連れ去りは、ハーグ条約という国際条約によって規制されています。

今回は、元配偶者・配偶者に子どもを海外へ連れ去られたときについて解説します。

ハーグ条約とは?

ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)は、国境を越えて子どもが一方の親によって不法に連れ去られたり、相手方の同意なく不法に留置されたりする問題に対処するための国際的な枠組みを定めた条約です。この条約は、1980年にハーグ国際私法会議で採択され、日本においては2014年4月1日に発効しました。

条約の目的は、子どもの奪取自体が子の利益を著しく害するとの考えに基づき、締約国間で協力し、不法に連れ去られた子どもを元の居住国(常居所地国)に迅速に戻すことにあります。

これは、国境を越えた親権紛争が長期化することで、子どもの健全な成長に悪影響を及ぼすことを防ぐための措置です。

また、ハーグ条約は、子どもの返還手続だけでなく、連れ去られた側の親と子との面会交流を確保することも重要な目的としています。

条約が適用されることで、国境を越えた子の連れ去り問題について、各国の法制度の違いを超えて、共通のルールに基づいた解決を目指すことが可能となります。

ハーグ条約の適用要件とは?

ハーグ条約は、国際的な子の連れ去りすべてに適用されるわけではなく、条約の規定に基づいたいくつかの適用要件を満たす必要があります。

ハーグ条約の適用要件と手続

条約の対象となるのは、締約国間で16歳未満の子どもが、一方の親の監護権を侵害して国境を越えて連れ去られた場合です。

1つ目の要件として、連れ去った親と連れ去られた親、そして子どもが、連れ去り発生時に締約国の領域内にいたことが必要です。

このため、日本が条約を締結していない国との間で連れ去りが発生した場合は、条約の適用を受けることはできません。

2つ目の要件として、子どもの年齢が16歳未満である必要があります。

3つ目の要件として、連れ去り行為が、連れ去られる前の国(常居所地国)の法律に基づく親の監護権を侵害していると認められることが必要です。

監護権を侵害された親は、子どもが現在いる国の中央当局を通じて、子どもの返還を求めることができます。

中央当局は、返還の申立てを受け、相手方親の連絡先を特定したり、紛争解決のための話し合いのあっせんを行ったりするなど、手続の支援を行います。

返還申立ては、子どもの常居所地国への返還を求めるものであり、親への直接の引渡しではありません。

常居所地国へ返還した後、親権や監護権については、その国の裁判所で改めて判断されることになります。

 

日本においては、返還申立てに関する法的な手続は、東京家庭裁判所または大阪家庭裁判所が専属的に管轄します。

申立てを受けた家庭裁判所は、返還の是非について審理を行い、返還命令が出た場合、子どもを返還しない親に対しては、日本の裁判所による強制執行の手続も整備されています。

たとえば、米国、やブラジル、フランス、フィリピン、ロシアなどから日本に連れ去られた子について、家庭裁判所や高等裁判所が返還を命じた裁判例があります。

子どもを連れ去られたときに早期の対応が必要な理由

国境を越えて子どもが連れ去られた場合、ハーグ条約に基づく手続を進めるにしても、そうでなくても、早期の対応が極めて重要となります。

時間経過は、子どもの生活環境の安定性という観点から、連れ去った親に有利に働く要素となり得るからです。

相手方の監護実績が積みあがってしまう可能性がある

子どもが連れ去られた後、対応を遅らせてしまうと、連れ去った側の親による監護実績が積みあがってしまうという大きな問題が生じます。

日本の裁判所は、親権や監護権の判断、および子の返還の判断において、子の福祉を最も重要な基準とします。

子どもが新しい国、新しい環境で一定期間生活を送り、その生活が安定していると判断された場合、裁判所は「現在の安定した生活環境を維持すること」が子の利益にかなうと判断する傾向が強まります。

連れ去り行為から時間が経つほど、子どもはその環境に慣れてしまい、元の居住国に戻すことによる環境変化のリスクが強調されやすくなります。

結果として、返還命令が出にくくなったり、連れ去った側の親に親権が認められやすくなったりする可能性があります。

このリスクを避けるためにも、連れ去り行為があったことを知った後、早急に、子どもを連れ去り先の環境に定着させる時間を与えないために、法的な手続を開始することが決定的に重要となります。

返還拒否される可能性がある

ハーグ条約は、迅速な子の返還を原則としていますが、例外としていくつかの返還拒否事由を設けています。

条約に基づき返還拒否が認められる可能性が高まるため、早期の対応が重要です。

1つ目の返還拒否事由として、連れ去りから1年以上経過した場合、子どもが新しい環境に馴染んでおり、返還が子どもの福祉に反すると認められるときには、返還が拒否される可能性があります。

この1年という期間は非常に重要な目安となるため、この期限内に手続を進める必要があります。

2つ目の返還拒否事由として、返還が子どもの心身に重大な危険を及ぼすおそれがある場合も、返還が拒否される可能性があります。

たとえば、連れ去られた親が過去にDVや虐待を行っていたとして、連れ去った側の親がその事実を主張するケースです。

相手方がDVや虐待を主張した場合、それが事実であるか否かに関わらず、裁判所は慎重な判断を要するため、手続が長期化します。

連れ去られた親は、相手方のDVなどの主張を覆すための反論や証拠を早期に準備し、子どもの安全性を確保できることを示す必要があります。

これらの返還拒否のリスクを高めないためにも、連れ去り行為から間もないうちに、弁護士と連携し、法的な手続を開始することが必須となります。

海外に子どもを連れ去られたときは当事務所にご相談ください

国境を越えた子どもの連れ去り問題は、ハーグ条約の適用に加え、国際私法、各国の家族法、そして現地の裁判手続が複雑に絡み合うため、極めて高度な専門性が求められます。

当事務所は、国際離婚をはじめハーグ条約の子ども連れ去りについて強みをもっています。

国際的な子の連れ去り問題においては、言語の壁が手続の大きな障害となります。

子どもが連れ去られた国の中央当局や、現地の弁護士、裁判所とのコミュニケーションは、原則として外国語で行う必要があります。

当事務所では、英語をはじめとする多言語での対応が可能です。

これにより、海外の機関との正確な意思疎通を実現し、申立書や証拠書類といった外国語で作成された文書の読解や、法的な意味合いの正確な把握が可能です。

言語の壁による誤解や、情報伝達の遅延を防ぐことで、申立てから返還手続に至るまでの時間を短縮し、迅速な問題解決につなげます。

また、ハーグ条約に基づく子の返還請求手続は、現地の裁判所での審理や強制執行を伴うことが多く、連れ去り先の国の弁護士の協力が必須となります。

当事務所は、海外の弁護士や法律事務所と広範に提携しているため、広範な国や地域における法的な問題に対応できます。

まとめ

子どもの連れ去りは、時間が経つごとに相手方の有利に働いてしまいます。一刻の猶予もありません。

子どもの返還に関しては、早急に当事務所までご相談ください。